先日、手に入れた時計です。市場では不人気で安価に忘れ去られている時計ですが、33㍉ケース、スラントしたインナーベゼルにより中心へ押し込まれたバーインデックスがもたらす独特な"凝縮感"、平面を強調したコイン状のステンレスケース、ケースサイズに対して長いラグ等、市場では不人気で安価に忘れ去られているモデル名さえないクォーツシリーズのベーシックモデルですが、今一番のお気に入りです。
しかしながら、どうしても手を入れたい部分があり、皮ベルトの新調も兼ね、簡単なカスタマイズをしました。
最初の作業は研磨によるラグサイドのエッジの角出しです。この作業は、アカツメさんによる時計ケース研磨のページを大いに参考にさせて頂きました。詳細について興味のある方は一読されてください。
この時計の生産された時代は、外装周りの仕上げは現在のセイコーよりも丁寧な仕事をしていましたが、やはりベーシックモデルのせいかラグのエッジが甘いのです。速攻、研磨による角立てを決行しました。
粗磨きは調理器具のミンサーミキサーを使用しています。本来、挽いた肉や魚のすり身を撹拌する業務用厨房機械なのですが、回転速度をツマミ1つで自由に調整できる強力なモーターを持ち、回転軸を持つ首の角度を90度の範囲で自由に変えられ作業上、都合が良いのです。ケース研磨の作業はこの回転軸に用途別に付けるアタッチメントに水研ぎペーパーを貼付した自製の物で、分解した時計のミッドケースのラグ外面をやや低回転で水研ぎし
角立てしました。雑に進めないように慎重に何度も研磨面の状態を確認しながら、また余分な研ぎ汁はその都度拭いました。マズマズの満足できる角立てが出来たと思います。研磨はラグの外面だけのみで、ラグ上面は研磨による痩せた平滑面が出るのを避けたく、スコッチブライト工業用パッド320番によるヘアライン仕上げを縦方向に向けて仕上げました。スイス風のラグの斜め方向に入るヘアラインも良いのですが、私のスキルでは難しく確実な作業を見込める縦方向にしました。
尚、ラグの内側は研磨はせず、研磨剤含有のクロスにて軽く磨いたのみに留めました。
その他の細かい部分の手仕上げには、上面を斜めに削いだ天削げワリバシ、竹製爪楊枝など、身の回りの日用品と水研ぎペーパーを用い、仕上げました。
今回のもう一つの目的はワンサイズ大きな皮ベルトへの変更でした。最初はこの時計の標準サイズである、19㍉の剣先へ向けてしぼったタイプを装着してみましたが、無難ではあるが、平凡でボーイズサイズのようなビミョウな見た目になり、少し手を加えたくなりました。やや厚みのあるサイドステッチタイプの、ドイツ製ボックスカーフのワンサイズ大きな20㍉サイズのベルトに決定しました。
オーバーサイズにした理由はやや小径でシンプルなケースにややマッシブな要素を加え、個性を高め、絞りの入らない剣先へ向けてストレートなベルトの側面がエッジの鋭いケースのラグ側面に対して角度がついて、ラグエッジの鋭さが増す効果を狙っての事です。
ボックスカーフの特長は通常の植物タンニンなめしに対して、光沢感のあるクロムなめしで、コードバンのような強い光沢感ではなく、ややスモーキーな光沢感が特徴です。前回画像の装着ベルトがコードバンです。
斜めに削いだワリバシのカット面をバネ棒側のコバを弱めにシワを入れないように押しながらベルトのサイズを調整しました。コードバンのように硬い革ではないので、1㍉ていどなら歪みも出ずに簡単です。
画像が今回の完成写真です。マズマズ当初の狙いは達成できたかなとおもいます。最後にベゼル上面の研磨を忘れたことに気づいたのですが、次回に対処としました。