今回はフェルサ社のビディネーターのご紹介をしてみたいと思います。
1918年、スイスのレングナウに誕生したフェルサ社は、創業当時より手巻き機械では定評の高いムーヴメント製造会社でした。
同社の歴史を大きく変えたのは、今回取り上げる1942年、世界初の全回転双方向自動巻き機械であるCal.410を初出とする第2世代に当たるCal.690だと思われます。
初出のCal.410の持つ独自構造の大径バレルは精度の安定、手巻き時には自動巻き機構への不干渉を可能にさせる独自構造により特許を取得するなど、半回転バンパー式ハーフローター全盛の時代にあって画期的な新時代の幕開けを告げる自動巻きムーヴメントといえます。
ロッキングホイールの配置変更を受けたCal.690系はカレンダー、ムーンフェイズなど追加機能を施された派生機種を多く生み出し、画像のユリスナルダンの他、エベラール、ブライトリング、ミネルヴァ等、名だたるスイスの時計メーカーに広く採用されました。
全体に薄型な機械で、外見上の大きな特徴である軸部に紅くルビーの輝くフラットなローターはチリチリと心地好く軽快に巻き上げ、精度も安定した優秀作であり、とても1942年初出の機械とは思えません。
ここでビディネーターを語る上で私が特に強調したいのは、上記のような有名メゾンの他、無名の弱小メーカーの廉価な時計にも度々、搭載されている事実なのです。
これはエボーシュメーカーとして良心的で適正な卸し価格での提供を行った裏付けであり、フェルサ社の先進的な開発とメーカーとしてはビディネーターの両面からの優秀性を示す高級自社製自動巻き機械に負けじとエボーシュメーカーの心意気さえ感じるのです。
実用時計に多く搭載されたビディネーターの現存数は決して多くは有りませんが、無名のメーカーの時計に搭載されたアンティーク時計市場で見られるビディネーターは僅か数千円で入手可能なのです。
クォーツショックにより1969年にETA社による吸収によりその長い歴史に幕を閉じたフェルサ社の時計史に埋もれた名作をご紹介したいと思い、ここに記しました。
昨今のオールドムーヴメント・ブームによりジャケ・エトワール社により限定販売されたビディネーター42はちなみに定価61万円也でした。古時計はお得ですね笑